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タイトル
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ワルザザードレストラン
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| 目的地 |
アフリカ・中東 > モロッコ > ワルザザート
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| 場所 |
ワルザザード |
| 時期 |
1992 年 7 月 |
| 種類 |
景色 |
| コメント |
Nさんは夕闇が迫る頃、ホテルのレストランで食事をとると言って、席をはずし た。 空の紫色を帯びた雲から、呼応するかのように月がでていた。 満月だった。 日本でみるより、かなり遠くに感じた。 3杯目のお茶を飲むころには、プールサイドではベルベル民族のきらびやかな衣装 を纏った男女の楽団が地方の民謡らしき歌を奏で始めた。 男達が太鼓を叩き、女がメロディをとった。 昨日のことなのにシェ・アリの一夜が遠くなつかしく蘇ってきた。 何処かで聞いたような旋律は、何処かへ魂をいざなう。 もう少しここにいたかったが、この曲が終わると席を立つことにしよう。 めざすは、Mレストランである。 すっかり夜道となってしまった。 Mレストランは、地図ではハッサン5世通りにあったが、なかなかみつからない。 人口1万5千人の、「なにも聞こえない」を意味するこのワルザザードの町は、も のの10分も歩けば、うら寂しい街灯がポツポツ灯っているだけの通りになってし まうが、その街灯だけの通りになってしまった。 引き返して今度は、一件、一件看板に目を凝らしながら歩いた。 歩きやすさという点で、この町はとても快適な町だ。 あの、なめまわすようなアラブ人の視線も、空虚を突くような視線も届いてこない。 私を私として放っておいてくれる。 ようやくみつかったMレストランには通りから奥まった古びたビルにローマ字で綴 った店名の看板と、おざなりな電球がちらほら飾ってあった。 店の外はオープンテラスになっており、15ほどのテ−ブルのうち、3つ4つしか まだ埋まっていなかった。 通りに面した一番前のテーブルに着くと、すぐ隣に老人がアラビアンナイトの世界 にでもでてきそうな真鍮の大きなポットから少しずつ茶を注いでいた。 老人は茶を注ぎ終えると、仙人のように目を閉じて、何か思索するかのようにもの 静かに耽っていた。 老人は私がこの席を立つまでその動作を何度か繰り返していた。 小太りの愛くるしい顔をしたウエ イターが注文をとりにきた。 「カルテを」と言うと、心得たとばかりに「ウイ」とうなずき店へ消えて入った。 すぐに、うやうやしく厚紙に手書きで書かれたメニュウを持ってきてくれた。 フランス語で書かれたメニュウにほっとした。そして、心にきめていたケフタ・タ ジンを、それだけではと小心な私は、ポテト入りオムレツとサラダとコーラを注文 した。 |
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