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モスクにて
モスクにて

タイトル  モスクにて
目的地 アフリカ・中東 > モロッコ > マラケシュ
場所 モスクにて
時期 1992 年 7 月
種類 景色
コメント エッ、一人で?−−−それも歩いて?だめ、だめ!」            
「公認ガイドを付けて行かないと、一人じゃあ、ひどい目にあう
よ、ほんとだよ」
−−ジャマ・エル・フナ−−−私が、かなり前から胸の内で、
ほとんど記号化していた。
この言葉を呪文のように口にすると、ホテル前にたむろしていた男
が助言してきた。
もの欲しげなくせに何か威圧するような眼と、せきたてる口の動き
に圧倒されながらも「いやガイドはいい。」と男に背を向けた。               
「ガイド!ガイド!オンリー・ウォーク、ノン、ノン!」           
 夜のとばりがすっかり落ちかかり、私はずた袋にテープレコーダ
ーとカメラとほとんど役に立ちそうもないガイドブックを忍ばせて
ジャマ・エル・フナ広場へ向かった。   
宿は新市街のはずれで、めざす旧市街の心臓といわれるジャマ・エ
ル・フナ広場は、地図でみるかぎり徒歩ではきつそうだった。陽が
沈んだばかりだというに、夜の8時でもう新市街はひっそりとして
おり、歩く人すら見かけない。      
やがて、その昔王の保養所であったメラナ離宮に続くメナラ大通り
に出、足を東へとる。
すると、森の公園を背にした通りにはベンチがあり夕涼みをしてい
るのであろう人達でいっぱいだった。ただしすべて男達である。
皆、ピクリとも動かず、会話もほとんど聞こえてこない。
そのかわり、街灯もなく黒い夜道ではあったが、男たちの
舐めまわすような視線だけはひしひしと感じる。あなたが男であ
れ、女であれ異邦人であるかぎり、アラブ・イスラム世界を旅する
人、全てが経験する異邦人としての原体験である。 
その眼は何を訴えるわけでも、何かを語るわけでもなく、ただ、た
だ「見る」という行為にある。
いままさにその洗礼を受けているわけだ。                
この、アラブの男たち独特の視線に耐えられる人は、この地の旅を
豊穣で快感なものとして獲得することができるだろう。逆に、そう
でない人は一生不快な体験としてつきまとい、この地を呪うことに
なる。小心なる旅人の運命やいかに。    


祝祭移動日はこうしてはじまった。                     

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