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カスバ街道にて
カスバ街道にて

タイトル  カスバ街道にて
目的地 アフリカ・中東 > モロッコ > その他の都市
場所 カスバ街道
時期 1992 年 7 月
種類 景色
コメント ワルザザード奇譚(月と太陽と三人の青年)−                                                  

 丘に向かって私は歩いていた。嬉しくも悲しくもない・・そう、感情がなかっ
た。  
丘はガレバの塊のようなテーブル状で、その丘を登るのではなく、その丘の見晴ら
しが利く所まで歩いていくつもりだった。                  
歩きながら、ふと、ここが何処だか知らないことに気ずいたとき、時空が空転した
かように、こちら側へ連れ戻された。
白いリネンのシーツが肌にやさしくひっついていた。             

ゆっくり、ゆっくりと今のが夢だったことを意識しはじめた。         

朦朧としながらも、光に包まれていることがわかり、その拍子で目が覚めた。  
光は月光だった。                             
ホテルの半地下の窓から、南東の方角だろうか月はまだ高くにある。
空は青みがかっている。
とても強い輝きだった。               
そして、次に聴覚が正常にもどると、どこからかコーランが流れてきた。    
ベットのサイドテーブルに手を伸ばして、腕時計をみると、短針は4時をさしてい
た。 
スピーカーから流れているのは明け方前の礼拝を告げるアッザーンだった。                                        

ぼーっと月光をみつめながら、何をするでもなく煙草をくゆらせていた。    
そして、3本目の煙草に火を付けたとき、朝日を見に行こうと思い立った。   
何故、もう少しはやく気づかなかったのかと後悔じみたものと、我ながら良い思い
つきだという複雑な気持ちが入り交じりながら、慌ててジーンズを履き、いつも持
ち歩いているズタ袋を手に、部屋を出た。                                                       
 ホテルの回廊もプールサイドもロビーにも人の気配はなく自分の足音に少しびく
ついた。 
正面玄関の大きな扉は内鍵がかかっていたが、容易にとりはずすことができ、扉を
開くと、ひんやりとした空気に肌が波うつように反応した。
砂漠も朝は冷え込む。     
西の空は黄色がかっていた。                        
少し急ごう。砂漠の地平線の日の出を見に−−−−。             
ガイドブックにホテルは載っておらず現在地がいまひとつわからなかったが、とに
かく刻一刻と変化する空をめざして歩いて行こう。              
ホテルは町のなだらかな高台に位置するらしく、どんどん道は下り坂になっていっ
た。 
やがて、大きな四差路につきあたり、わずかながら弧を描いたカーブを曲がると、
赤茶けた土の城が眼の前に現れた。
カスバらしかった。                 
きっと、ここはグラフィイのカスバだろう。
16世紀ごろから、集権制ながらも地方の 太守たちは、このような城塞を築いて
権力をふるった。
現在もここには200人ほどの人が生活しているらしい。           
カスバはまた後で、ゆっくり見物することにして歩を進めた。
西の空はかすかに桃色がかってきたのだ。
日の出は近い。
ピッチを進めてさらに歩くと、通りは二手に別れており、一方の「エルラシディア
行き」と表示された標識とは別の道をとった。      
30分もあるくと、民家もだんだんまばらになり、地平線も見え隠れし始めた。 
アスファルトの道からはずれて土の上を歩こうと方向を変えようとしたとき、一人
の男がヌッと現れ、「ボンジュール」と挨拶してきた。
兵隊だった。
アラブとベルベルの混血のようなこの男の顔だちはまだ、あどけなさが残ってい
た。
目は異常に大きい。  
私は、挨拶がわりに「モムキン、タスウイ ール(写真、撮っていい?)」と声かけ
た。 
男は、私の拙手なアラビア語にいたく嬉しそうで、あたりをキョロキョロみまわし
た後、残念そうに首を振って申しわけなさそうにした。
私には感じられなかったが、彼には人の気配がしたらしい。
観光者といえ軍事施設及び兵士の写真はかたく禁じられている。 
私は彼に気にしなさんなと、かわりに彼に一枚撮ってもらい、別れを告げた。
彼はまだ物足らなそうで、なごりおしむように「バイバイ」と言った。     
先ほどの兵士の男とのやりとりを取り戻すかのように、慌てて駆け足で荒野を進
む。 
 だが、間に合わなかった。                        
太陽はまん丸い顔をすでにのぞかせていた。                 
農家らしい民家の前で若い男が牧草を積む作業をしていた。
彼は外国人をみるのは、はじめてなのだろう。
ビックリしたような顔で私を見つめる。
しかも、場所と時間がにつかわしくない状況なのだからなおさらだった。
突然の闖入者にまごついている彼に、挨拶した。
「サラーム・アレイコム」彼は、少しあとずさりした。           
高台に立つと、涸れ川があり小さな木が川沿いにポツリとはえていた。     
 しばらく、ここで、すっかり昇りきった太陽をながめながら煙草をくゆらせてい
ると、どこからともなく、麦わら帽子をかぶった男がこちらにやって来た。   
そして、私の前で立ち止まった。その表情は、幼少の頃から「みてはいけないも
の」と教えられていたものを、今まさにみてしまった、というような表情だった。
そして、我にかえったように時計をみせてくれと動作をし、大きな目をして私の腕
を覗きこんだ。
そして、一体何処へでかけるのか、砂漠へ向かって歩きだした。      
ときどき、振り返っては私の方を見て、見てはまた歩きだし、やがて地平線の手前
の靄のなかへ消えていった。                        
 ホテルへの帰り道、先程の丘は寝起きにみた夢の風景とそっくりだったこと、出
会った3人はどこか似ていたことに、うつらうつらと頭をもたげはじめた・・・。
その時、一番最初に出会った兵隊が「ボンジュール」−煙草を持ってないか−と目
の前に現れた・・・・。                             

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