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ルブアルハリ砂漠横断
ルブアルハリ砂漠横断

タイトル  ルブアルハリ砂漠横断
目的地 アフリカ・中東 > その他の国・地域 > その他の都市
場所 イエメン
時期 1996 年 5 月
種類 景色
コメント 午前3時にモーニングコールであったが、2時には目が覚めていた。
イエメンに来てから極端に睡眠時間が短縮している。
ときどき、イエメン人の流儀にならい、神経興奮作用があるとされる「カートの葉っぱ」を噛んでいるからでもなさそうだ。
どうも、―旅をしている―こと自体に私には神経興奮作用がある、らしい。
ようは、子どもなのである。
今朝は、草木も眠るとんでもない時間にモーニングコールがあるわけだが、フロントから電話があったときには、準備万端、シャワーを浴び、ウィスキーを飲んでいた(笑)ときだ。
何故そんなに早くから起床かといえば、本日ハドラマウトの砂漠越えを敢行するのである。
道なき砂漠を走り、ときにはビッグウェーヴのようなうねりをみせる大砂丘を越えねばならない。
――昨日、すべてを発掘するよりも、砂漠に埋もれてしまうほうが早いのでは?と心配した遺跡の数々を見学した後の夕食時、ナジプサはこう申していた――。
「明日は朝早いです。モーニングコールは3時です。ロビー集合4時半。出発5時です。車の揺れはこれまで以上にすごいです。車の故障もあるかもしれません。インシャラー(神望みたもうなら)ですが。気を抜かないでくださいね!」
気を抜いたのは、ナジプサである(笑)
全員、ロビーに集合した4時半にも現れず、出発前にようやくいつも以上に目を赤くして登場した。
しかし、なんだかワクワクするではないか。
固いパン2切れのみの朝食をすませ、荷積みがなかなかはかどらないドライバーたちの作業をイライラしながら眺め、ナジプサを迎えようやく私の長い朝が終わろうとしていた。
そのナジプサの眠気マナコをみて、ハッと思い返したことがある。
「――次の日のハドラマウト砂漠抜ける道、ベリィ危険ね。いくつかの部族が山賊化してるね。観光客は特に狙われやすいね。ルブアルハリ砂漠は砂だけで何もないとこね。この砂漠で道を間違えると特に狙われるね。武装した山賊の格好の餌食ね――」
サナアを発つときにささやかれた、あの言葉が脳裏に浮かぶ。
「――でも、ノープロブレムね。ヤタ・ツアーのガイドみんな優秀ね――」
最後に付け加えられた言葉は、全然信用してなかった(笑)。
 東の空は墨色から淡い紫に変化していた。
またくじ引きになり、今日は3号車だ。
そういえば、ナジプサが「護衛です」といった兵士たちはどこへ消えたのだろう?
ジプシーがたむろする不穏なマーリブダムや子どもたちから石が飛んできた太陽の宮殿で、彼らはどこにいたのか?
マーリブへ入る手前のバラケシュ遺跡以降とオールドマーリブ以降、彼らは姿を消していた。
ひょっとして彼らが−守った−のは、「私たちを」ではなく、「私たちから遺跡を」守ったのではないか、と頭にそんなことがもたげていた。
「サラーム。私の名前はアリです」
あなたもアリさんですか?(笑)
そしてご丁寧なことに、車はオンボロで、シートは壊れかけていて、そこには毛布が積まれ、エアコンは効いてなく、カーステレオからアラビア音楽がガンガン鳴るとろまで、すべて昨日の5号車と「同じ」だった。
 マーリブの町を去る頃には、空全体が濃い青みがかってきて、進行方向の東の方角は幾筋もの光のプリズムを放っていた。
早朝出発して砂漠へ向かうのは92年のモロッコ旅行で北辺の町エルフードからメルズーガ砂丘行ったのと同じだが、メルズーガは大きな砂丘でサハラ砂漠の一部とはいえ、たかが知れていた。
「今回の偉大な砂漠越えは比にならないだろう」と、ミシェランの地図が示すルブアルハリ砂漠を眺めながらほくそ笑んでいる。
砂漠――と聞くと、私たちは「サラサラとした砂丘をラクダのキャラバンが行く」ことを想像しがちだが、アフリカのサハラもアラビア半島の砂漠も大半はサナアからマーリブへ向かったときの風景−瓦礫と土と岩山がつづく―土漠がほとんどを占める。
もちろん、それらもやがては風化し、砂のみの世界に変わるのだが――。
 途中、ご来光となり、車を降りて、日の出撮影会になった。
足元の砂のところどころには、乾いた黒々としたものが散らばっていた。
それを拾い上げたとたん、触れてはならぬもの、だと気づいた。
「めずらしいものが落ちているよ、ほら触ってごらん」
「それ、ラクダの糞でしょ」
アリたちはその間、タイヤの空気を抜いていた。いよいよ砂漠へ突入するのだと、夢にまでみた砂漠越えが間近であることを実感した。
3号車のアリはイエメン人とは思えぬほどデップリ太っていて、大きな垂れ目の瞳、ダンゴ鼻、口髭をたくわえ、彼を描けば、まちがいなく「スーパーマリオ」になる。
このどこか憎めないマリオは呑気に鼻歌を歌いながら、ジャッキで車体を持ち上げるのでさえ、「アーデモナイコーデモナイ」と、緩慢な動きで、それさえ愛嬌におもえた。
砂漠に入りすぐに、それは間違いだったことに気づくのだ。


砂漠ルートに入りものの30分もしないうちに、我が3号車は置いてきぼりにされた―――。

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